セオドア・ガジンスキー②:天才数学者はどいつもこいつも”自然”を愛しがち。通称ユナボマー
- 2019.03.24
- サイコパス名鑑

どーも皆さんこんばんわ
ゲーム探偵でおなじみ、ガンダルフと申します。
数学や物理学を専攻する人たちは、「世界の作られ方がわずかでも違えば今の世界は存在していない」という事実に驚くそうです。
カジンスキーの行動も、多くの天才にとっては理解しやすいものだと思います。
さっそくカジンスキーの続きにいきましょう。
セオドア・カジンスキー

(1942年5月22日~)
通称:ユナボマー
事件発生

1978年5月25日、ノースウェスタン大学バックリー・クリスト教授の下へ一通の小包が届きます。
しかし、それは通常の郵送ではなく”奇妙なやりくち”で届きました。
”差出人”がクリスト教授になった小包が見つかったんです。
郵送先ではなく、差出人がクリスト教授のモノになっている小包がイリノイ大学シカゴ校の駐車場で見つかったため、クリスト教授へ「返却」されてきたんです。
もちろんクリスト教授はそんな小包出していません。
気味の悪さを感じ、キャンパスの警察へ連絡。警官のテリー・マーカーが小包を開封すると

直後、爆発
彼は左手に怪我を負いました。犠牲としては最小限にとどめられました。
小包の中には、木製の箱入りの鉄パイプ。
パイプの中には無煙火薬がぎっしり詰め込まれていました。

木製の栓で両端をふさがれたもので、強度が弱く内圧を高めることが出来なかったため、爆風が弱まったことで命まで奪うことは無かったようです。
箱を開けると、ゴムバンドでひっぱられた釘が6本のマッチを叩き着火。その仕組み自体は原始的なものでした。

カジンスキー自身は1978年5月にイリノイ州に帰ってきており、父と弟の職場であるフォームラバー工場でお手伝いをしつつ滞在していました。
しかし
8月、弟よりクビ宣告
理由は、カジンスキーが付き合っていた女性のことをバカにした詩を書いたからだそうです。
しかし、女性側にのちのち確認してみると「頭がよくて静かな人」という感想のみで、付き合ったり恋愛関係にあったことは無いと否定されています。
なんかいろいろ残念です。
第二の爆弾

この事件の翌年、1979年にシカゴからワシントンD.C.に向かうアメリカン航空の、旅客機内部にある貨物倉に
時限爆弾が仕掛けられていました。
その規模は、「爆発すれば飛行機を木っ端微塵にする」程の爆発を引き起こすもので、乗客は間違いなく一人も生き残ることが……
…え?
……いやいや?
え~…っと

爆発しておりません。
時限装置の不具合だったようです。煙を発したため、飛行機は緊急着陸しましたが、爆発は起こりませんでした。
なんかいろいろ残念です。
爆弾には、手がかりが隠されていました。
たいていは鉄パイプの木栓に「FC」(のちに”Freedom Club”の意味と判明)というイニシャルの入った金属プレートが仕込まれており、今回の飛行機に仕込まれた爆弾にはメモが残されていました。メモの内容はコチラ。

“Wu—It works! I told you it would—RV”
ウゥー!やったぜ!こうなるって言っただろ! -RVより
なにも起こっていません。
なんかいろいろです。

もちろん爆弾を仕掛けるなんて、とんでもない犯罪行為。
FBIが捜査に乗り出し、容疑者は大学・航空機爆弾犯(University and Airline Bomber)の頭文字でUNABOM(ユナボム)と名づけられました。
他にもノースウェスタン大学の工学部学生が、壁に寄りかかるように置かれた奇妙な装置を拾い上げた際、突如爆発し負傷する事件も発生したり、スローン・ウィルソン著『氷の兄弟』の本に爆弾が埋め込まれていたことも。
その全てに自然物(樹皮や木)の一部が入っていたり、ターゲットの名前にパーシー・”ウッド”、リロイ・”ウッド”教授などの木に関する単語が入っていたりしたことから

犯人は自然、樹木といったテーマを持った愉快犯である
というプロファイリングが行われました。
犠牲

カジンスキーの犯行は、これまで人命を奪うことはありませんでした。
最初の重症者は、1985年に被害にあった大学院生でアメリカ空軍大尉ジョン・ハウザーで、彼は4本の指と片目を爆発によって奪われています。
そしてとうとう、サクラメントでPCショップを経営していたヒュー・スクラットンが、駐車場に置かれた釘と金属片の詰め込まれた爆弾により命を落としました。
また1987年2月20日、PCショップへの攻撃は続いたようで、木材のように偽装された爆弾が、ソルトレイクシティのPCショップ駐車場に置かれていました。
残念ながら、どけようとしたゲイリー・ライトは爆発によって左腕の神経損傷、全身に200個以上の金属片を浴びる重症を負いました。

その後もアメリカ各地で爆弾事件が相次ぎ、時には指を吹き飛ばし、時には命を吹き飛ばし……
この時期の爆弾は初期の物と異なり、中に「釘や金属片」が入っています。手榴弾と同じ原理で殺傷力を高めていることからも、カジンスキーの怒りが強まっていることが分かります。
カジンスキーは稀に、犯行前や犯行後に電話などで姿を現しています。
大学生のエプスタインが指を数本吹き飛ばされ報道された後、過去に一度重症を負わせた大学教授に対し「次はお前だ」と電話をかけたり、広告代理店の役員が爆発により死亡した後に、ニューヨークタイムズに手紙を送ったり。
手紙の内容は

「トーマス・モーザー(広告代理店役員)を吹っ飛ばしたのは、エクソンが原油流出事故を起こした後に、悪いイメージを払拭するため手を貸したからだ」としています。
「この会社が大衆意見を操る技術を磨く事を事業としているからだ」とも書かれていました。
犯人の主張

1995年にはマスコミ各社へ繰り返し、自分の目的のあらましを書いた手紙と35,000語で書かれた「産業社会とその未来」という論文を送り、大手新聞に無編集で掲載するように要求しています。
この論文はFBIより”ユナボマー・マニフェスト”と呼ばれ、「コレを掲載すればテロ活動を止める」と手紙には書かれており、議論の結果ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストにより公開されました。

「産業革命とその帰結は、人類に大きな災いをもたらしている」
論文は
テクノロジーの進歩により無意味な活動に時間を費やすようになった人々は、最終的にテクノロジーに飲み込まれ社会体制に強制的に順応させられる「ディストピア」を生み出す。
という警告と、「野生へ帰ろう」という呼びかけになっていました。
要約ですら読むのが面倒でした。
一応、原文を掲載しておきますのでよろしければ。
http://murderpedia.org/male.K/k/kaczynski-manifesto.htm
当時は世間から「お、まぁまぁまともな考えじゃん」と受け止められ、論文に名前が出てくるUCLAの政治学者からは「もしコレが狂人によって書かれたものだとすれば、ルソーやトマス・ペイン、マルクスなんかの政治哲学者が書く文なんてキチガイじゃん」と評しています。
犯人の特定

結局、爆弾はどこでも見つかるような材料で作られており、犯人特定には至らず。
捜査情報の提供者用にホットラインが設置され、有益情報には100万ドルの報奨金が提供されることになりました。

カジンスキーの弟のデヴィッドは、妻より論文掲載前から「あいつユナボマーじゃね?」と聞かれており、最初は取り合わなかった彼も論文を読むと、兄とユナボマーの共通点が嫌でも目に付くようになりました。
兄が過去にテクノロジーの濫用について書いた手紙を、新聞各社へ送っていたことを思い出して引っ張り出すと、手紙に使われた言葉遣いはまるであの論文の著者そっくり。

FBIのホットラインに大量の情報が届いている裏で、デヴィッドは私立探偵に兄の調査を依頼し証拠を収集しました。
集めた証拠の取りまとめと、FBIへの情報提供を弁護士に依頼し、紆余曲折あって、カジンスキーの過去の論文とマニフェストに類似性を見出した犯罪プロファイラーは、言語解析により論文の作者とマニフェストの作者は同一人物と見てほぼ間違いと判断。
デヴィットは匿名でFBIに協力していましたが、後にCBS NewsにリークされてしまったことでFBIは大急ぎで逮捕状を請求。

1996年4月3日、掘っ立て小屋にいたカジンスキーは逮捕されました。
小屋内には、
貯め込まれた爆弾の部品
爆弾製造の実験作業などについて記された日記
ユナボマーの犯罪についての解説書
生きた爆弾も1つ見つかりました。
ちなみにオリジナルの「産業社会とその未来」も。
最終的にカジンスキーの犠牲者は死者3名、重軽傷23名という悲惨な結果になりました。

裁判に際しカジンスキーは、弁護団を解雇して自己弁護を行う「テッド・バンディ方式」を採用しようとしていましたが、「審理すすまねぇよ」という検察の判断により、「仮釈放無しの8回分の終身刑」を司法取引で提案。
カジンスキーはコレに同意し、そのまま刑が確定。
公判は一度も開かれること無く、犯行動機もハッキリ証言することなく、また攻撃対象をどう決めたのかも多くを語ることはありませんでした。
現在でもカジンスキーは、コロラド州フローレンス刑務所でテクノロジーに囲まれた生活を送っています。
彼が野生に帰るのは、土に埋められるその日までおあずけです。
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